Knowledge基礎知識
ハラスメントのその先にあるもの~刑事事件~
セクシャルハラスメントやパワーハラスメント等ハラスメントについて別記事で概観しました。
ここでは、ハラスメント問題のその先にある刑事事件について、基本的なところを概観します。
パワーハラスメントと刑事罰
パワーハラスメントにおいて、厳しい言動が行きすぎると、単に企業内でパワーハラスメントであると認定されるだけではなく、刑事犯罪となる恐れがあります。
- 相手の身体に対して有形力を行使した場合には、相手が怪我を負わなかった場合であっても暴行罪(刑法第208条:暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の拘禁刑若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。)が成立する可能性があります。相手が怪我をしてしまった場合には、傷害罪(刑法第204条:人の身体を傷害した者は、十五年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。)が成立可能です。
- 言葉による攻撃であっても、度が過ぎた場合には、名誉毀損罪(刑法第230条)や、侮辱罪(刑法第231条)の成立可能性が検討されます。
セクシャルハラスメントと刑事罰
セクシャルハラスメントと密接に関連する刑事罰規定として、不同意わいせつ罪(刑法第176条)や不同意性交等罪(刑法第177条)など、性的自由に対する罪があります。
- これら性的自由に対する罪は、平成29年及び令和5年に大きく法改正が行われました。すなわち、平成29年の改正前には、「強姦罪」は「姦淫」のみを処罰の対象としていたものを、平成29年改正で、男女の別なく、また処罰対象となる行為の範囲を拡大しました。従前強姦罪は親告罪とされていたものを非親告罪とされたのもこのときです。
- 更に、令和5年に課題とされていた改正が行われて現在以下の様な形となっています。
不同意わいせつ罪
刑法第百七十六条 次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、六月以上十年以下の拘禁刑に処する。
一 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。
二 心身の障害を生じさせること又はそれがあること。
三 アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。
四 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。
五 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。
六 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕がくさせること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。
七 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。
八 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。(2項以下略)
不同意性交罪
刑法第百七十七条 前条第一項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、性交、肛こう門性交、口腔くう性交又は膣ちつ若しくは肛門に身体の一部(陰茎を除く。)若しくは物を挿入する行為であってわいせつなもの(以下この条及び第百七十九条第二項において「性交等」という。)をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、五年以上の有期拘禁刑に処する。(2項以下略)
注意点
技術的でわかりにくい条文構成ですね。
上記刑法176条1項3号で「アルコール(中略)の影響」が規定されていることのほか、8号において「社会的関係上の地位に基づく影響力」が規定されている点、様々な場合に適用可能性がある点に気をつけて頂きたいと思います。
まとめ
今回はパワーハラスメント・セクシャルハラスメントなどの先にある刑事罰規定について概観しました。
ハラスメントのご相談においては、刑事事件化する可能性を含めて検討する必要があります。
ハラスメントを受けている。あるいは、ハラスメントだと指摘を受けた。そういった場合には、早めに、弁護士に相談されることをお勧めします。